136・過去のない男

映画監督アキ・カウリスマキ

 フィンランドの世界的監督アキ・カウリスマキの映画をみました。初めてです。実はこれまで、その名前さえ知りませんでした。いゃ~感動しました。よくある痛快映画もどきのアクロバットやドンパチ、さもなくば「こんなに必要なの?」と思うほどの過剰な性描写、そして特にハリウッドが陥っているアファーマティブ・アクションへの神経質すぎる配慮等々が、この監督の映画には見当たりません。あ~なんという新鮮さか。そして「映画はすべからく、面白けりゃいいの!」と言わんばかりに、今は興行収入にばかり目が行くアンチョコ映画が世界を闊歩していますが、フィンランドのこの監督が織りなす映画の美しさと言ったら~もう流石。ですから、こんなに言うと「へ~本当に?」ときっとお思いでしょう。そこで今日のHatenaは、その映画についての素人っぽく、かつ稚拙な個人的感想を少し披歴することにします。 では…

(136)過去のない男

<2024/9 近江八幡>

 今回「マッチ工場の少女(1990)」、「枯葉(2023)カンヌ映画祭審査員賞」、「過去のない男(2002)カンヌ映画祭グランプリ」、「浮雲(1996)」の4本を観ました。この作品に共通する点ですが、BGMはもちろん適宜使われています。ただし、それは部屋に置かれたラジオやジュースボックスから流れてくるという演出、それともステージからの実況演奏として流れてくるといったスタイルです。また出てくる曲のすばらしさと言ったら、それはもう…。それにひきかえ、近ごろ大見え切って封切られる日本映画の数々ですが、ほぼ全編BGMの流しっぱなしといった酩酊、昏睡状態。どうなのでしょうね、こんな制作手法。「あたかも俳優の演技力や製作者の演出力の無さを隠蔽するように行われるBGM被せ」とは言い過ぎでしょうか。もちろん名優たる理由としてよく言われる、台詞の無い無声時の「手」の演技などを期待するのは全くお門違いかも知れません。またアキ・カウリスマキ監督は、彼のほとんどの作品の脚本を手掛け、いわゆる作家主義(映画を画家や彫刻家等を美術作家というように、映画監督による個人の表現手段、表現物とみなすべきだとする考え)の監督と評されています。補足すると、作家主義の考え方では「映画における表現主体は、出演している俳優や脚本家、その他のスタッフなどではなく、映画監督という名の唯一の個性を有した、作家個人のみ」ということになるようです。ところで今回見たどの作品も、社会の底辺で喘ぐ失業者や労働者を主人公に描かれ、踏みにじられる人間性とその回復を描いています。また恋愛・犯罪・死・旅・音楽・ペットといったノスタルジックな娯楽要素やオフビートなユーモアを内包しつつ、ここが大切なのですが、「大仰な演技や劇的なせりふを抑え、淡々と見る者の心に語り掛けるその持ち味。」それこそ、この映画が、ある種の人間賛歌とも感じられる所以かもしれません。またこの「大仰でない演技や劇的なせりふを抑え」については、かの映画界の現人神、小津安二郎監督を敬愛していたことからも、なんとなく理解できそうです。またカメラワークは動きの少ない淡泊なタッチで一貫していて、観客との心的同化をゆったりと醸し出してくれます。そしてフィンランドという薄日の中の静的な風情も、モノクロもしくは彩度を抑えた無機質で抑制的な内面表現には打ってつけのようです。そうそう、スマホでも有名な大手通信機器メーカーのノキアがあるフィンランド。それがどうしたことか最新作「枯葉(2023)」にもスマートホンのシーンは、ほとんどありません、たしか?  本当はフィンランドの人はIT化好きじゃないのかな? そう言えばテレビについても、単なる部屋の家具としてちょっぴり出てくるのですが、映像や音楽媒体として出てくることは、この4作品にはありませんでした。そしてあれだけ徹底した紙の教科書からデジタル教育への移行を計ったフィンランドですが、昨今は学力の世界順位トップクラスからの転落が甚だしく原因究明の後、以前のように紙の教科書へ戻す政策を決定し強力に推進しています。今回アキ・カウリスマキの映画をみて思うのは、これこそフィンランドが描く誇張の無い静かな人間賛歌ではないかと。ともあれ本当にいい映画なんです。ぜひぜひ、みてごじゃ~れ。もちろんムーミンにも乾杯!! ただフィンランドのNATO加盟は至極残念です。

★アキ・カウリスマキ(フィンランドの映画監督・67歳)

主な監督作品は長編19本・短編11本

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