117不適切にもほどがある!

《今更ですが　このドラマは不適切な表現および喫煙シーンが含まれますが（中略)　その是非を問うことを主題としているため　あえて1986年当時のまま放送します》…毎回こんなテロップが挿入されるTV番組、ご存じですよね。あの毎週金曜日夜10時からTBS系で放送中の「不適切にもほどがある!」です。それは1986年(昭和の時代)と今(令和の時代)を行ったり来たりタイムスリップするといった荒唐無稽なお話。それが毎回平均視聴率7～8％台と大人気とは。ではその魅力とはなんなんでしょう。これが今日のHatenaです

117不適切にもほどがある!

地域猫　推定7～8歳　ミィちゃん

　最近、19世紀初頭のヨーロッパ、王侯貴族の一人が黒人というハリウッド映画を観ました。ただ黒人であることの説明は最後まで一切なく、やはりクオーター制(格差是正のためマイノリティーに対して強制的に一定数を割り当てるポジティブアクションの一つ)に基づく人種的配慮のように思われ、ただただ歴史歪曲の違和感が残ってしまいました。また日本でもTVに「一部不適切な表現がありますが、オリジナリティーを重視して、そのまま放送します」のテロップがよくくっついて流れます。たいてい日本映画や古いテレビドラマの再放送を放映する場合にそれは多いのですが、「一部不適切ってどこ?」といった視聴者側の疑問も、観る世代のちがいで様々生まれるかもしれません。それでも番組の制作現場では人種差別や性差別と思われるものは禁止、さらにはひょっとして「差別」につながりそうな表現の検閲にも躍起…いや血眼。あげくのはて、それに照応したエビデンスとして、人種や性別など特定の集団を教育や就職などで優遇するアファーマティブ・アクション(テレビで言えばキャスターやメインキャスター、主演俳優の女性枠増など)の配慮がなされています。それでも、いいと思って制作した番組が今は突如「差別だ!不適切だ!」の大合唱に見舞われる恐れがあり、テレビ制作者はまさに不安神経症の状況でしょう。そうした状況下、お茶を濁すというか、放送事故の場合の被害を最小限に抑えるため、ワイドショーのメインキャスターに限らず各種番組で降板がやり易い、お笑い芸人(ある意味、吉本や松竹などからの派遣社員)の多用といった傾向を生んでいます。その結果、報道や教養番組でさえ専門性の欠如したバラエティー番組化。さらには社会の時流や風説に乗るだけに腐心するドラマの蔓延。それに抗うように三四十年前放送された橋田壽賀子ドラマの再放送が人気だそうです。対してそんな中、窒息死しそうなコンプライアンス重視の世相に立ち向かうかのごとく、主人公小川一郎が「不適切発言」の連発を引っ提げ登場したこのドラマ。それはまさにコメディーの域を超え、TV制作関係者のみならず、各年層にまたがる視聴者を唸らせ、大谷のホームラン以上のカタルシスになっているはずです…きっと。折しもこうした問題の先進国である米国。最近では男女の二項対立化の様相を呈してきたジェンター問題。さらにはIP「アイデンティティ・ポリティクス(人種、宗教、ジェンダーなど特定のアイデンティティーに基づく集団が、その構成員のアイデンティティーに対しての社会的承認を求める運動)」またそこから派生した前述の「アファーマティブ・アクション」に対しても、ちょっと行き過ぎだ!といった批判的意見が保守、進歩両派から生まれているようです。NHK/BSで「男はつらいよ」を観ました。毎度のことながら、そこから聞こえてきたのは、裏の印刷工場の従業員を寅さんが「おい職工!」と呼ぶ声。さらに別の回でも「職工ふぜいに、うちのサクラはやれない」という台詞がありました。もちろんこの台詞をカバーするかのように、映画の始まりには例のテロップが流れていました。しかし、今の時代、もしそれが新作であれば差別発言としてカットでしょう。ところがどっこい表現の自由や思想信条の自由が憲法で保障されている日本。なのに今は息苦しいまでに肥大化した様々な社会的コードの敷衍。テレビドラマ「不適切にもほどがある!」はそんな社会の空気を手玉に取ったある種アイロニーとしての警鐘ドラマ。また寝た子を起こす(黙ってハイハイごもっとも、と聞いてりゃいいのにという意見に対して)ドラマ。また宮藤官九郎が社会の空気におもねらず、側面攻撃の荒技を駆使するシナリオライターであることも判明しました。さぁその「不適切にもほどがある!」ですが後半はいかに。楽しみは尽きませんが、観てない人はぜひTVerで。このドラマ、インド映画の「ムトゥ躍るマハラジャ」のように毎回終盤にはミュージカル仕立てで、劇団四季や宝塚歌劇団といった本格俳優出演のショータイムが始まります。では3/8pm10～「不適切にもほどがある！第7話　回収しなきゃダメですか?」に乞うご期待

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