74.絵画は怪貨

 驚きモモノキ、昨年男性版モナ・リザと称されるダビンチの「サルバドール・ムンディ(救世主)」は絵画史上世界最高の612億円(1ドル136円換算で)で落札されました。612億円って積み上げると、1万円札1億円で約1メートルですから600メートルほど。おおよそ599メートルの高尾山と同じくらいになります。ところでキャンバスや絵の具などの画材費用は大きさや質にもよりますが、大体一枚描くのに1~2万円といったところでしょうか。それがどうして!こんな?…今日はこんな疑問をだらだらですが書いてみます。

疑問(74)絵画の怪貨

最初からちょっと固い話で恐縮ですが、マルクスは資本論第一巻でこう述べています。「商品の価値はすべてその労働によって生み出され、その価値通りに市場で売買される。」これには価値と使用価値、さらに剰余価値とか技術革新とか搾取といったややこしい内容も含まれるのですが、マルクス経済学の視点で言えば商品の価値とは商品の生産に費やされた労働時間が根本といったところでしょうか。それがこの、べらぼめ!と言いたくなるような価格、なぜでしょう?  この絵画を生産するためには高尾山をつくるのと同程度の労働がいるとでも言うのでしょうか。ところで、こうした本来の商品価値を超越した投機熱や報酬の例は他にもたくさんあります。例えば17世紀オランダのチューリップ・バブルも有名です。チューリップ球根がその希少性を競い合いながら上昇し、ついには1球根が数百万円といった価格にも跳ね上がった、あの歴史的お馬鹿事件です。また近ごろスポーツ選手の年俸についても100億円を超すような人も現れていますが、それもみんなに感動を与える力量のある人、あるいは観客数を増加させて、運営企業の収益アップにつなげそうといった期待からでしょうか、なんとも不思議な価値判断です。もちろんこうした途方もない商品価格や報酬の事例は、芸術やスポーツの世界ばかりではありません。米国の損害賠償金額など、事故、事件にかかわらず、中には何千億円といった賠償金額の事例もあります。「悪いことして、すみません」…と反省。「やったぜ!」…とご褒美。「欲しい!欲しい~」…とまさに欲望の赴くままにです。これら感情のスケールを全てお金の尺度、お金といった甚だ俗物的で野卑な手段で表現するは、まさに米国発祥の伝播事のように思えてきます。ダビンチのモナ・リザに感動する人。レンブラントの夜警に感動する人。感動の対象は人それぞれです。各自の多様性をことさら唱える現代社会で、個々人の感動や被害の感情まで数値化、さらには金額化できるようなものではないはずです。昔は芸術の愛好家=資産のある王侯貴族に限られていました。しかし今は違います。今は、お金のある人。ただそれは、お金があるというのではなく、どれだけ頑張って使っても、決して使いきれないような巨万の富をもつようなお金持ちを言います。フォーブスの長者番付ランキングに出るような人や、本来は人類の共有財産であるはずの化石燃料やレアメタルの採掘でガバガバ潤うような国の元首といった人たち。しかし彼らがそろって芸術への造詣が深いなどとはとても言えません。(失礼!中にはお見えかも知れません)そこで希少性やケインズの言う「美人投票」<誰がミスコン1位になるか当てるには、自分が美人だと思う人にではなく、他の人がたくさん、美人だと思うような人に投票することが肝というお話>的投機思考で買い漁る、もしくは貪る。本物か贋作かの科学判定にさえ何億かの出費が必要であっても「これが富豪の生きる道」とばかり絵画を買う人。もちろん庶民もそうした投資の疑似体験はするものの、2000万円問題対策で老後のための投資だとか、多くは社会的不満へのガス抜き程度のささやかなものです。ただ化石燃料やレアメタル、さらには自然環境全般などと同様に、本来は人類共有の財産である芸術作品。今、それが投機過熱による作品価格の天文学的高騰を原因として、公的美術館の作品収集機会さえ萎えさせています。もちろんこうした芸術作品の価格高騰が、所在不明名画の発見機会になっている場合もあります。しかしそれ以上に戦火や盗難など外的要因による劣化や滅失を防ぐ意味からも、本来堅牢で安全な公的美術館での収蔵が望まれます。そのためには芸術作品を投機目的に使うような今の価格つり上げシステムの解消が早急に必要かもしれません。芸術作品は山や空や海と同様に国家、人類共通の財産のはずです。今のように強欲な競りの声にさらされる名画たちを、なんとか救うことはできないでしょうか、気がかりです。今日は核兵器廃絶についての国際賢人会議スタートの日。それで芸術作品の処遇改善についても話いあうような国際賢人会議もあればいいなあ~と、ついつい思ってしまいます。そしてさらに強欲資本主義の成れの果てのような、全てを金銭尺度で測る現代社会の価値観。何とかならないものかと、やっぱり思ってしまうのは余計かな~?

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